税務調査の「準備調査」とは?元国税調査官が明かす裏側

おはようございます!八尾市のいしい税理士・行政書士事務所、元国税調査官の石井です。

税務調査と聞くと、調査官が会社に来てからのやり取りをイメージされる方が多いかもしれません。しかし実は、調査官が会社を訪問する前に、勝負の半分は決まっていると言っても過言ではありません。

それが、調査官が事前に会社のことなどを徹底的に調べる「準備調査」です。準備調査は、税務調査の内容と結果を左右する重要なものです。今回のブログでは、経営者の方や税理士があまり知らない、この「準備調査」について解説します。

私が法人の税務調査を担当していた頃の「現場のリアル」も交えてお話ししますので、ぜひ参考にしてください。

目次

準備調査とは何か?

準備調査とは、一言で言えば「調査のプラン作り」です。調査対象の会社にどのような問題点がありそうか、どこを重点的に検討すべきか、事前に洗い出す作業のこと。

調査官は、行き当たりばったりで質問しているわけではありません。「どのような項目を、どのように検討・確認して、追徴課税に繋げるか」これらを事前にイメージし、詳細な準備調査書類を作成しています。

作成した書類は、上司である「統括官」の決裁を受けます。ここで統括官から「この点を必ず見てこい」といった指示が入ることもあり、この指示事項は調査当日、最優先で確認されることになります。

【元国税調査官の視点】
調査当日に調査官が確認する項目は、準備調査の段階である程度は決まっています。調査官が手ぶらでやってくることは決してありません。

調査官は何を見ている?

では、調査官は具体的に何を見て準備しているのでしょうか?準備調査で行う作業は膨大ですが、主に以下の書類・情報を組み合わせて分析しています。

準備調査に用いる「書類・情報」

調査官はこれらの情報を網羅的に収集しています。

区分内容
基本資料決算書、申告書、事業概況説明書、勘定科目内訳明細書
過去の届出書過去に提出された届出書・申請書など
税歴(ぜいれき)税務署内で管理される「過去の調査履歴」や「代表者の性向」などが詰まったファイル
資料せん取引情報などが書かれたもの
KSKシステム国税庁のデータベースから出力される分析資料
Web情報会社のホームページ、代表者や法人のSNS・ブログ
関連人の情報(申告がある場合)代表者本人や親族の確定申告書
取引先情報必要に応じて取引先の申告内容やHPなど

特に気になる「税歴」と「資料せん」

AIのイメージ画像です

特に経営者の方が気になるのは、内部情報である「税歴」「資料せん」ではないでしょうか。

税歴(ぜいれき)

過去の調査で不正やミスがあった場合、必ず記録されています。「前回指摘された箇所が改善されているか」は、今回の調査で真っ先に確認されるポイントです。

また、外部からのタレコミ情報(特に文書)もここで管理されていることが多いです。

【元国税調査官の視点】
前回の調査で指摘された箇所は、次回の調査でも必ずチェックされます。「前回指摘されたから今回は大丈夫だろう」という考えは危険です。むしろ、前回指摘された箇所こそ最も厳しく確認されると思っておくべきです。

資料せん

これは「税務署が集めた取引情報の記録」です。

納税者が提出する資料は約1億枚、国税組織が独自に収集した資料は約14億枚あるというデータがあります。これらは税歴ファイルに挟んで管理されており、申告内容と照らし合わせて「売上の計上漏れがないか」などをチェックします。

【元国税調査官の視点】
資料せんは、皆さんが想像する以上に膨大な情報が蓄積。取引先からの情報だけでなく、様々なルートで集められた取引データが、あなたの会社の申告内容と照合されるのです。

内観・外観調査

飲食店や風俗店などの現金商売の場合、事前に客のふりをして潜入したり、外から店の様子を観察したりする「内観・外観調査」を行うこともあります。ここで得た情報も資料化されます。この資料がきっかけで不正がバレることもあります

資料調査課の調査では、内観・外観調査の資料が特に重要視されます。

KSKシステムについて

全国の国税局・税務署を結ぶ巨大ネットワークです。決算書データから「異常値」を弾き出し、調査すべき科目をレーダーチャート(☆評価)などで教えてくれます。

2026年9月からKSKがKSK2に進化し、税務調査の「選ばれ方」と「調べられ方」が、これまでとは根本的に変わります。前述した「資料せん」も紙ベースからデータベースに変わることが予想されます。

KSK・KSK2について、次のブログで詳しい内容を解説していますので、一度目を通しておいてください。

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準備調査で「やっていること」と「かける時間」

密かに行われる分析作業

調査官は、直近5期分(5年分)の決算書データをExcelに入力し、グラフ化や比較を行います(KSK2によりこの作業が自動化されることが予想されます)。

具体的には、以下のような視点で分析します。

  • 売上が下がっているのに、交際費が急増していないか?
  • 売掛金や買掛金の残高に不自然な動きはないか?
  • 貸倒損失などの「臨時的で大きな損失」が計上されていないか?

これらを分析し、申告内容に矛盾がないか、売上除外や架空経費の疑いがないかを徹底的にシミュレーションします。

【元国税調査官の視点】
調査官は5年分のデータを横並びで比較し、「例年と違う動き」を探します。数字の動きに不自然さがあれば、そこが調査当日の標的になります。

準備調査にかける時間は?

一般的な法人課税部門の調査(最も多いタイプ)の場合、準備調査にかける時間は「半日程度」が多いです。もちろん、会社の規模や過去の不正歴によってケースバイケースですが、限られた時間の中で効率的に「怪しい箇所」を絞り込んでいます。

【ここだけの話】調査官の本音と実情

ここからは少し、税務署の内情をお話しします。

「時間との戦い」が生むリアル

調査官一人あたり、年間で約30件の調査を担当します。週に1件ペースで新たな調査に着手しなければならず、しかも不正や誤りが見つかれば見つかるほど、証拠固めや書類作成に時間が取られます。

「時間をかけたくてもかけられない」というのが実情であり、一般的な調査では「効率重視」で、ある程度形式的な準備調査になることもあります。

「徹底的にやる部署」は別格

一方で、「特官(とっかん)」と呼ばれる部署や、海外取引・IT・現金商売などの専門部署は別次元です。

彼らは1件あたりの調査に多くの時間をかけますし、独自のルートで濃い資料を持っています。「外観・内観調査」も頻繁に行います。そのため、これらの部署が出てくる調査は、不正の把握割合も高く、追徴税額も高額になる傾向があります。

一般的な法人調査と専門部署の調査では、準備調査の密度が全く異なります。自社がどの部署の調査対象になりやすいかを把握しておくことも重要です。

上司(統括官)の指示は絶対

準備調査の際、上司である統括官から「この科目のここを確認しろ」と指示があれば、調査官は何があっても確認しなければなりません。もし確認漏れがあれば、調査後の報告(復命)の際に厳しく詰められます。

実は私自身、調査官1年目のときに指示内容をうっかり忘れ、強烈に詰められた苦い経験があります…。

よくある質問(FAQ)

Q1. 準備調査はすべての税務調査で行われるのですか?

A. はい、原則としてすべての税務調査で準備調査が行われます。ただし、かける時間や深度は、会社の規模や過去の調査履歴、担当部署によって大きく異なります。一般的な法人課税部門の調査で半日程度、専門部署であれば数日〜数週間かけることもあります。

Q2. 準備調査で使われる「税歴」の内容を、自分で確認することはできますか?

A. いいえ、税歴は税務署の内部管理資料であるため、納税者が直接確認することはできません。ただし、過去の調査で指摘された内容は自身で把握しているはずですので、その箇所が改善されているかを事前に点検しておくことが実務的な対策となります。

Q3. 調査官が準備調査で作成した計画書は、開示請求できますか?

A. 調査計画書は税務署の内部文書であり、情報公開法上の「行政文書」には該当するものの、調査の中立性や関係者の権利利益保護などの観点から、不開示とされることが一般的です。ただし、調査の進行状況に応じて、調査の対象範囲について調査官に確認することは可能です。

Q4. 準備調査で「怪しい」と思われないようにするには、どうすればよいですか?

A. 日頃から適正な申告を行い、帳簿と証憑の整合性を保つことが基本です。特に、過去の調査で指摘された箇所の改善、売上計上の時期の適正さ、交際費や寄付金などの経費の妥当性については、調査官が重点的にチェックする項目です。事前に税理士と点検しておくことをお勧めします。

Q5. SNSやブログも準備調査の対象になるのですか?

A. はい、なります。会社のホームページだけでなく、代表者個人のSNSやブログも、調査官が確認する情報の一つです。SNSで発信している事業内容や収益情報と申告内容に矛盾があると、そこから追及される可能性があります。発信内容には注意しましょう。

まとめ|敵を知れば不安は減る

税務調査の前に行われる「準備調査」の裏側、いかがでしたか?

国税組織は、皆さんが想像する以上に多くのデータと情報を持ち、それらをパズルのように組み合わせて「不正の仮説」を立ててからやってきます。

こう書くと怖く感じるかもしれませんが、「相手が何を知っているか」「何をしようとしているか」を知っておくだけで、税務調査に対する漠然とした不安は大きく軽減されるはずです。

  • 調査官は訪問前に徹底的に準備している → 当日ゼロから調べるわけではない
  • 税歴・資料せん・KSKシステムなど、多角的な情報を組み合わせている
  • 前回指摘された箇所は最優先で確認される → 改善状況を点検しておく
  • 「敵を知り、己を知る」ことが、税務調査への不安軽減につながる

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近年は税制が複雑になっていますが、制度をうまく活用できれば、事業の継続・成長・発展につながるほか、制度によっては大きな節税も実現できます。その一方で、制度の内容や取引実態の確認不足による誤った処理など、税務調査で否認されるリスクも高まっています

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この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で10年以上、法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。在籍中に中小企業診断士登録。その後、高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、より多くのお客様に向き合うため独立開業。
顧問先様の「税務調査ゼロ」を掲げ、年間30件以上の創業支援を手がけるとともに、酒類販売免許に強い行政書士として活動。令和7年度からは大阪産業創造館の「経営サポーター」として大阪の経営者を多角的に支えている。趣味はダンス・筋トレ・ゲーム

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