税務署からの電話やお尋ね文書の対応について【通称:簡易な接触】

近年「簡易な接触」として、税務署からの問合せ電話やお尋ね文書の送付が多くなっています。

特に確定申告期間終了後、簡易な接触は増加します。

そんな簡易な接触ですが、「税務調査」の通知と勘違いされる個人事業主や社長もいます。
初めて税務署からお尋ね文書が届くと「何かされるの!?」と驚くのも無理はありません。

詳しくは後で解説しますが、実務上は簡易な接触は「税務調査」ではなく「行政指導」と考えて差し支えありません。

※簡易な接触の定義は曖昧であり、簡易な接触の中に税務調査を含むことも考えられます。実務においては、簡易な接触は行政指導のみと解されます(理由の解説もあり)。今回のブログでは簡易な接触は行政指導のみとします

簡易な接触(行政指導)として、税務署からの電話での問合せには特に注意が必要です。
税務署職員が「税務調査」と「行政指導」の違いを理解していないケースが多いからです。

そのため、簡易な接触の対応の仕方を間違えるとトラブルの原因になりかねません。

今回のブログでは、簡易な接触の概要・行政指導と税務調査の違い・電話対応の注意点などを解説します。

目次

簡易な接触とは

国税庁の資料において、簡易な接触とは「税務署等において書面や電話による連絡や来署依頼による面接により、納税者に対して自発的な申告内容の見直しなどを要請するもの」とされています。

【令和5事務年度 法人税等の調査事績の概要】
https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/hojin_chosa/pdf/01.pdf
※1ページの注1に、簡易な接触の定義の記載あり

簡易な接触の背景

簡易な接触の背景にあるのが調査事務の効率化です。

現在、約56,000名の限られた人員で、調査すべき対象者(悪質な納税者など)への調査に力を入れている状況です。
次の資料にあるとおり、データやAIの活用による効率化が進んでいます。

【国税庁レポート2024】
https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/report/2024.pdf

【税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-】
https://www.nta.go.jp/about/introduction/torikumi/digitaltransformation2023/pdf/syouraizo2023.pdf

悪質な納税者などに時間をかけ、そうでない納税者にはあまり時間をかけないようになってきています。
調査件数自体は減っていますが、追徴課税の金額が増えているデータにもそれが表れています。

書面による簡易な接触

書面の場合は、税務署から「お尋ね」文書が送付されます。
「申告内容等についてのお尋ね」など「〇〇のお尋ね」と書かれた文書です。

いろいろな税目で幅広い内容のお尋ね文書が送付されており、すぐに回答ができる簡単なものもあれば、数日かけて法的な根拠や判断理由の回答をしないといけないものもあります。

後者の場合は、税務署長が出す文書によるお尋ねで、回答書の用紙も送付されることが多いです。

どのような場合にお尋ね文書が送付されるかについては「相続が発生したとき」「住宅を購入したとき」「年末調整の扶養控除に誤りが想定されるとき」などです。

ちなみに、私が税務署の法人課税部門にいたときには、最も悪質な無申告法人の調査に力を入れていたため、その疑いがある法人に対してお尋ね文書を送付していました。

電話による簡易な接触


電話連絡(問合せ)の場合は、申告内容や計算に誤りが想定される事項の確認や、確認のための書類提出の依頼などがあります。

実際に私が受けたものとして、賃上げ税制の計算が合っているかどうかの確認依頼、輸出業者の消費税の還付申告に係る輸出関係書類の提出依頼がありました。

電話連絡の場合は、税務署職員が「税務調査」と「行政指導」の違いを理解せずに実施しているケースが多く、対応には注意が必要です。

対応の仕方は後述します。

簡易な接触=行政指導か

国税庁の資料で簡易な接触=行政指導と明確に記載されたものはおそらくありませんが、実務として簡易な接触=行政指導と考えて差し支えありません。

簡易な接触の定義に「自発的な申告内容の見直しなどを要請」とあり、お尋ね文書にも「この文書は、行政指導として送付しているものであり、その責任者は表記の税務署長です」と記載されているからです。

行政指導の定義を確認しましょう。

行政手続法第2条 第1項 第6号 行政指導の定義
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。

税務行政における行政指導は「適正公平な課税の実現のために、誤りなどが想定される納税者に対し、自発的な申告内容の見直しなどを求める行為」と言えるでしょう。

行政指導があった場合、基本的には指導内容に対応しなければなりません。
対応しなかったり、いい加減な回答をすると税務調査に移行する場合があります。

税務調査に移行する場合は、法律に基づく調査宣言(事前通知)がされます。

行政指導と税務調査の違い

ここからは簡易な接触=行政指導として記載します。
行政指導と税務調査の違いは2つあります。

違い① 加算税

違いの1つ目は、加算税が課されるかどうかです。

・行政指導には加算税は課されない
・税務調査には加算税が課される

加算税(正確には過少申告加算税)はペナルティであり、新たに納めることになった税金の10%(一定のラインを超えると、その部分は15%)が課されます。

行政指導によって申告を見直した結果、申告誤りなどがあり自主的に修正申告した場合、加算税は課されません。
一方、税務調査により調査官から申告誤りなどの指摘を受け、修正申告するよう勧奨されて修正申告した場合、加算税が課されます。

違い② 質問検査権の行使

違いの2つ目は、質問検査権が行使されるかどうかです。

・行政指導には質問検査権が行使されない
・税務調査には質問検査権が行使される

ここで質問検査権の根拠条文を確認しましょう。

国税通則法第74条の2 第1項 当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権

国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の当該職員は、所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは、次の各号に掲げる調査の区分に応じ、当該各号に定める者に質問し、その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件の提示若しくは提出を求めることができる

前述したとおり、質問検査権が行使されるものが税務調査です。
質問検査権は強い権限であり、その行使は税法(国税通則法)に基づいて行われます。

行政指導は行政手続法に基づく「自発的な申告内容の見直しなどを要請」であるため、質問検査権は無関係です。

電話対応の注意点

電話対応の注意点として、電話連絡(問合せ)があったときは、相手方に「この連絡は行政指導によるものか」確認する必要があります。

そうしないと後で「税務調査での連絡」と言われ、加算税が課される可能性がゼロではありません。

本来、行政指導の際には「行政指導の趣旨と内容」「行政指導の責任者」を伝えないといけません。

行政手続法第35条 第1項 行政指導の方式
行政指導に携わる者は、その相手方に対して、当該行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない


しかし、税務署の担当者が電話連絡時にそれらを伝えているケースは少ないです。

行政指導の根拠は前述した「行政手続法」であり、税法ではありません。
そのため、行政指導のルールを知らない税務署職員が一定数いることとなります。

また、書面の場合は、税務署内の決裁があり法律に基づいたものになりますが、電話連絡の場合は部門の判断や担当者個人の判断によるため、行政手続法を理解せずに行われることがあります。

税理士として過去に受けた電話連絡での行政指導において、「行政指導の趣旨及び内容並びに責任者を明確に示さなければならない。」というルールが守られた連絡は今のところゼロです。

その他行政指導で知っておきたいこと

その他行政指導で知っておきたい事項は次のとおりです。

行政指導の一般原則

行政手続法第32条 第1項
行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。

書面の交付義務

行政手続法第35条 第3項
行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前二項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない

不利益な取扱いの禁止

行政手続法第32条 第2項
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない

中止等の求め

行政手続法第36条の2 第1項
法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる

まとめ

簡易な接触(行政指導)件数は、今後はさらに増えていくことが予想されます。

令和5事務年度(R5.7.1~R6.6.30)の調査事績の状況の資料から、特に法人に対しての簡易な接触件数が増加しています。
しかも、法人に対しての簡易な接触による申告漏れ所得金額は過去最高となっています。

今後、経営者や税理士が「簡易な接触」の対応をする機会は増加します。

電話連絡での問合せは解説したとおり注意が必要です。
誤った行政指導も多くなることが予想されます。

過去に、行政指導にもかかわらず、帳簿書類のコピーの提出を求めてくるなど、質問検査権の行使(税務調査)と認められるような事例もありました。

そのような事例に遭遇した場合、行政指導の範囲の逸脱が考えられるため、書面による行政指導を求めることや、行政指導の中止を求めるべきです。

今回の解説を読んでもらった方は、誤った行政指導があったときに適切に対応できるはずです。

最後に、いしい税理士・行政書士事務所の強みは、税務・会計・国税組織の内規に精通していることです。
代表税理士のハイレベルな税理士法人で培った実務経験と元国税調査官の経歴が合わさることで圧倒的な税務調査対応力となっています。

私たちは、お客様の税務調査件数ゼロを目指しています。
税務調査となった場合でも、法律に基づき徹底的にお客様を守ります。

税務調査に不安がある方や、税務と経営の両方の相談を求める経営者の方は、当事務所までお問い合わせください!

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この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。
業界の手本と言える高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、出身地である八尾市にて独立開業。
現在、法人の税務顧問に特化した税理士事務所と、酒類販売業免許専門の行政書士事務所を経営するとともに、令和7年度 大阪市産創館の経営サポーターとしても活動。

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