決算書の一部である「個別注記表」を説明できる税理士は少数!?

おはようございます!

上の画像のとおり、決算書の最後に「個別注記表」というものがあります。
個別注記表は決算書の一部です。

注記表の一番上に、多くの場合は「中小企業の会計に関する基本要領(指針)によって作成しています」と記載されています。

ほとんどの場合、決算書は税理士が作成します。
残念ながら、一部の税理士は「中小企業の会計に関する基本要領(指針)」を正しく理解していません

「中小企業の会計に関する基本要領(指針)によって作成しています」と記載できないにもかかわらず、記載している注記表も多く見受けられます。

中小企業の会計の理解がないと、誤った注記表になるだけでなく、経営分析が正しくできない決算書になるおそれもあります。

今回のブログでは、意外と重要な「個別注記表」「中小企業の会計に関する基本要領(指針)」を解説します。

目次

個別注記表とは?

個別注記表は、会社法で作成・保存が義務付けられる決算書類の1つです。
個別注記表を簡単に説明します。

個別注記表の意義

まず、注記とは決算書を読む際に注意すべき点のことです。
そして、個別注記表は注記が一覧となって記載されている書類で、決算書(貸借対照表・損益計算書・株主資本等変動計算書)の補足資料として活用されるものです。

そもそも決算書は、経営者が企業の経営成績や財政状態を把握するとともに、企業の外部の利害関係者にそれらを伝えるために作成します。

個別注記表があることで、株主や取引先などの利害関係者に対して、会社の経営成績や財政状態を詳しく報告することができます。

注記表の記載事項一覧

注記の記載事項は全部で19項目あります。

マネーフォワード「個別注記表とは?記載例と注意点を徹底解説!」の画像より引用
https://biz.moneyforward.com/accounting/basic/48267/

株式会社の形態ごとに最低限必要な項目が異なり、会計監査人設置会社・公開会社・非公開会社などで分けられます。
中小企業は非公開会社ですので、注記が必要なのは6項目だけです。

中小企業の注記表の記載事項

中小企業の注記表の記載事項は6項目です。
専門用語が多いため参考程度でOKです。

2. 重要な会計方針に係る事項に関する注記(会社計算規則第101条)

重要な会計方針に係る事項に関する注記は、会計方針に関する次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。

一 資産の評価基準及び評価方法

二 固定資産の減価償却の方法

三 引当金の計上基準

四 収益及び費用の計上基準

五 その他計算書類の作成のための基本となる重要な事項

※五は繰延資産、リース取引及びヘッジ会計の処理方法、消費税等の会計処理など

3. 会計方針の変更に関する注記(会社計算規則第102条の2)

会計方針の変更に関する注記は、一般に公正妥当と認められる会計方針を他の一般に公正妥当と認められる会計方針に変更した場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社及び持分会社にあっては、第4号ロ及びハに掲げる事項を省略することができる。

一 当該会計方針の変更の内容

二 当該会計方針の変更の理由

三 遡及適用をした場合には、当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額

ハ 当該会計方針の変更が当該事業年度の翌事業年度以降の財産又は損益に影響を及ぼす可能性がある場合であって、当該影響に関する事項を注記することが適切であるときは、当該事項

四 当該事業年度より前の事業年度の全部又は一部について遡及適用をしなかった場合には、次に掲げる事項(当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なときは、ロに掲げる事項を除く。)

イ 計算書類又は連結計算書類の主な項目に対する影響額

ロ 当該事業年度より前の事業年度の全部又は一部について遡及適用をしなかった理由並びに当該会計方針の変更の適用方法及び適用開始時期

4.表示方法の変更に関する注記(会社計算規則第102条の3)

表示方法の変更に関する注記は、一般に公正妥当と認められる表示方法を他の一般に公正妥当と認められる表示方法に変更した場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。

 一 当該表示方法の変更の内容

 二 当該表示方法の変更の理由

2 個別注記表に注記すべき事項(前項第二号に掲げる事項に限る。)が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合において、個別注記表にその旨を注記するときは、個別注記表における当該事項の注記を要しない。

6.誤謬の訂正に関する注記(会社計算規則第102条の5)

誤謬の訂正に関する注記は、誤謬の訂正をした場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。

一 当該誤謬の内容
二 当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額

9.株主資本等変動計算書に関する注記(会社計算規則第105条)

誤謬の訂正に関する注記は、誤謬の訂正をした場合における次に掲げる事項(重要性の乏しいものを除く。)とする。

一 当該誤謬の内容
二 当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額

19.その他の注記(会社計算規則第116条)

会社の財産または損益の状態を正確に判断するために必要な事項があれば記載する。

中小企業の会計基準

中小企業の会計基準は大きく「中小企業の会計に関する基本要領(以下、基本要領)」・「中小企業の会計に関する指針(以下、指針)」・「企業会計基準」に分かれます。

ざっくり言うと、基本要領以外は実質的に大企業向けです。
以下、基本要領について解説します。

中小企業の会計に関する基本要領

基本要領は、中小企業の実態に即し、経営者の役に立つ会計であることが特徴です。
会社法第431条の「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」に適合した会計基準です。

次の考え方がベースとなっています。

・ 中小企業の経営者が活用しようと思えるよう、理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立つ会計
・ 中小企業の利害関係者(金融機関、取引先、株主等)への情報提供に資する会計
・ 中小企業の実務における会計慣行を十分考慮し、会計と税制の調和を図った上で、会社計算規則に準拠した会計
・ 計算書類等の作成負担は最小限に留め、中小企業に過重な負担を課さない会計

対象企業

指針と比べて、簡便な会計処理をすることが適当と考えられる中小企業を対象にしています。
株式会社のほか、特例有限会社・合名会社・合資会社・合同会社も対象です。

要領と指針の違い

どちらも中小企業向けとされていますが、指針は実質大企業向けの会計ルールです。

指針の方が基本要領よりも細かくルールが定められています。
基本要領は取得原価主義、指針は時価主義という違いが特徴的です。

会計処理の取扱い

複数の会計処理の方法が認められている場合には、企業の実態等に応じて、適切な会計処理の方法を選択して適用します。

会計処理の方法は、毎期継続して同じ方法を適用する必要があります。
変更する際は、合理的な理由を必要とし、変更した旨、その理由と影響の内容を注記する必要があります。

国際会計基準との関係

安定的に継続利用可能なものとする観点から、基本要領は国際会計基準(世界共通の会計基準)の影響を受けないこととされています。

指針の場合は、国際会計基準の影響を受けます。

会計処理の各論

基本要領の会計処理の各論について、以下のとおり、重要なものをまとめました。
税理士や経理担当の方には、参考として確認してもらいたいですが、経営者の方は読み飛ばしてOKです。

1. 収益、費用の基本的な会計処理

①収益は、原則として、製品、商品の販売又はサービスの提供を行い、かつ、これに対する現金及び預金、売掛金、受取手形等を取得した時に計上する。
②費用は、原則として、費用の発生原因となる取引が発生した時又はサービスの提供を受けた時に計上する。
③収益とこれに関連する費用は、両者を対応させて期間損益を計算する。
④収益及び費用は、原則として、総額で計上し、収益の項目と費用の項目とを直接に相殺することによってその全部又は一部を損益計算書から除去してはならない。

【わかりやすく解説】

①収益は、原則として実現主義(収益確定時点)により計上
②費用は、原則として発生主義(取引発生時点)により計上
③収益と費用の対応により、期間損益を計算
④収益と費用の記載は、原則として総額主義により計上

2.資産、負債の基本的な会計処理

①資産は、原則として、取得価額で計上する。
②負債のうち、債務は、原則として、債務額で計上する。

3.金銭債権及び金銭債務

①金銭債権は、原則として、取得価額で計上する。
②金銭債務は、原則として、債務額で計上する。
③受取手形割引額及び受取手形裏書譲渡額は、貸借対照表の注記とする。

4.貸倒損失、貸倒引当金

①倒産手続き等により債権が法的に消滅したときは、その金額を貸倒損失として計上する。
②債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能な債権については、その回収不能額を貸倒損失として計上する。
③債務者の資産状況、支払能力等からみて回収不能のおそれのある債権については、その回収不能見込額を貸倒引当金として計上する。

【貸倒引当金のポイント】

③について、法人税法で定める法定繰入率を容認

5. 有価証券

①有価証券は、原則として、取得原価で計上する。
②売買目的の有価証券を保有する場合は、時価で計上する。
③有価証券の評価方法は、総平均法、移動平均法等による。
④時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合を除き、評価損を計上する。

【有価証券のポイント】

④について、回収の見込みは経営者が判断

6.棚卸資産

①棚卸資産は、原則として、取得原価で計上する。
②棚卸資産の評価基準は、原価法又は低価法による。
③棚卸資産の評価方法は、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法等による。
④時価が取得原価よりも著しく下落したときは、回復の見込みがあると判断した場合を除き、評価損を計上する。

【棚卸資産のポイント】

③について、企業会計基準では認められない最終仕入原価法を容認
④について、回収の見込みは経営者が判断

7.経過勘定

①前払費用及び前受収益は、当期の損益計算に含めない。
②未払費用及び未収収益は、当期の損益計算に反映する。

【経過勘定の内容と具体例】

8.固定資産

①固定資産は、有形固定資産(建物、機械装置、土地等)、無形固定資産(ソフトウェア、借地権、特許権、のれん等)及び投資その他の資産に分類する。
②固定資産は、原則として、取得原価で計上する。
③有形固定資産は、定率法、定額法等の方法に従い、相当の減価償却を行う。
④無形固定資産は、原則として定額法により、相当の減価償却を行う。
⑤固定資産の耐用年数は、法人税法に定める期間等、適切な利用期間とする。
⑥固定資産について、災害等により著しい資産価値の下落が判明したときは、評価損を計上する。

【固定資産のポイント】

業績が悪い場合、減価償却費を計上しないことがあるが、その場合は基本要領に基づかないこととなる。
したがって、個別注記表の「中小企業の会計基準」の項目に、「中小企業の会計に関する基本要領(指針)によって作成しています」と記載することができない。

9. 繰延資産

①創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費及び新株予約権発行費は、費用処理するか、繰延資産として資産計上する。
②繰延資産は、その効果の及ぶ期間にわたって償却する。

【繰延資産のポイント】

・繰延資産は、対価の支払いが完了し、これに対応するサービスの提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって生じるものと期待される費用のこと
・②について、法人税法固有の繰延資産は「長期前払費用」に計上

【繰延資産の種類と償却期間】

10.リース取引

リース取引に係る借手は、賃貸借取引又は売買取引に係る方法に準じて会計処理を行う。

【リース取引のポイント】

・賃貸借取引に係る方法とは、リース期間の経過とともに、支払リース料を費用処理する方法
・売買取引に係る方法に準じた会計処理とは、リース取引を通常の売買取引と同様に考える方法であり、金融機関等から資金の借入を行って資産を購入した場合と同様に扱う。つまり、リース対象物件を「リース資産」として貸借対照表の資産に計上し、借入金に相当する金額を「リース債務」として負債に計上する
・リース資産は、一般的に定額法で減価償却を行う
・賃貸借取引に係る方法で会計処理を行った場合、将来支払うべき金額が貸借対照表に計上されないため、金額的に重要性があるものについては、期末時点での未経過のリース料を注記することが望ましい

11.引当金

①以下に該当するものを引当金として、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として計上し、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載する。
・将来の特定の費用又は損失であること
・発生が当期以前の事象に起因すること
・発生の可能性が高いこと
・金額を合理的に見積ることができること
②賞与引当金については、翌期に従業員に対して支給する賞与の見積額のうち、当期の負担に属する部分の金額を計上する。
③退職給付引当金については、退職金規程や退職金等の支払いに関する合意があり、退職一時金制度を採用している場合において、当期末における退職給付に係る自己都合要支給額を基に計上する。
④中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金等、将来の退職給付について拠出以後に追加的な負担が生じない制度を採用している場合においては、毎期の掛金を費用処理する。

12.外貨建取引等

①外貨建取引(外国通貨建で受け払いされる取引)は、当該取引発生時の為替相場による円換算額で計上する。
②外貨建金銭債権債務については、取得時の為替相場又は決算時の為替相場による円換算額で計上する。

13.純資産

①純資産とは、資産の部の合計額から負債の部の合計額を控除した額をいう。
②純資産のうち株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金等から構成される。

【純資産のポイント】

期末に保有する自己株式は、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示

14.注記

①会社計算規則に基づき、重要な会計方針に係る事項、株主資本等変動計算書に関する事項等を注記する。
②本要領に拠って計算書類を作成した場合には、その旨を記載する。

【注記のポイント】

・重要な会計方針に係る事項は、有価証券や棚卸資産の評価基準及び評価方法、固定資産の減価償却の方法、引当金の計上基準等を記載
・株主資本等変動計算書に関する注記は、決算期末における発行済株式数や配当金額等を記載
・会計方針の変更又は表示方法の変更もしくは誤謬の訂正を行ったときには、その変更内容等を記載
・貸借対照表に関する注記として、「受取手形割引額及び受取手形裏書譲渡額」を注記する。「未経過リース料」についても注記することが望まれる

会計処理の各論を含めた基本要領の詳細は、次のURLのとおりです。
必要に応じてご確認ください。
https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/doc/cpta/business/tyushoushien/indicator/chusyokaikeiyouryou120201.pdf

会計基準と法人税法の関係

法人税法22条4項において、「益金(収益のイメージ)の額と損金(費用+損失のイメージ)の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする。」とされています。

つまり、課税のもととなる所得(益金-損金)と会計の利益とは、税法上の別段の定めがあるものを除き、一致する関係性にあります。

税務調査においては、税務の処理はもちろん会計処理も確認されます。
しかしながら、会計のルールを正しく理解していない調査官が意外に多く、誤った指摘がされることがあります。

税理士は上記の会計ルールにも精通し、調査官たちの指摘が正しいか判断できるようになる必要があります。

まとめ

意外と重要な「個別注記表」「中小企業の会計に関する基本要領」を解説しました。

注記含め基本要領に基づく会計処理をしっかり行うことで、企業の経営成績や財政状態を把握するとともに、企業の外部の利害関係者に経営成績や財政状態を伝えることができます。

とは言え、単に税金を計算するだけの税理士が一定数いるのが現状です。
取引内容を把握せずに会計処理を行うことで、正しくない決算書になるおそれがあります。
正しくない決算書では、正しい経営分析や経営判断ができません。

財務や税務調査に強い税理士は、取引内容を把握して会計処理と注記をしっかりと行い、経営分析や経営判断に資する決算書を作成します。
その見極めとして、個別注記表の内容の説明を求めてみてもいいかもしれませんね。


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。
業界の手本と言える高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、出身地である八尾市にて独立開業。
現在、法人の税務顧問に特化した税理士事務所と、酒類販売業免許専門の行政書士事務所を経営するとともに、令和7年度 大阪市産創館の経営サポーターとしても活動。

目次