税務署が密かに進める「準備調査」…あなたの会社は大丈夫?

税務調査の前には調査官が会社のことなどを調べる「準備調査」というものを行います。

準備調査は税務調査の内容と結果を左右する重要なものです。

今回のブログでは、経営者の方と税理士が知らない準備調査について解説します。

私が法人の税務調査をしていたときのことも書いていますので、参考になれば幸いです。

以下、中小企業の準備調査を前提に解説します。

目次

準備調査とは

準備調査とは、調査対象の問題点や重点的に調査すべき項目を洗い出すことです。
調査官が税務調査でどのような項目をどのように検討・確認するかイメージすることと言えます。

調査官は準備調査の内容を書面で作成します。
税務調査で重点的に確認する事項などを記載(入力)し、上司である統括官の決裁を受けるため、統括官のチェックはもちろん、統括官から税務調査の指示もあります。

準備調査で行うこと

準備調査で行う作業は多いです。
まずは、準備調査に用いる書類・情報を解説します。

準備調査に用いる書類・情報

① 「決算書」「申告書」「事業概況説明書」「勘定科目内訳明細書」
② 過去に提出された「届出書」「申請書」
③ 税務署で管理される「税歴」と呼ばれるファイル
④ 「資料せん」と呼ばれる取引情報などが書かれた書類
⑤ 「KSK(国税総合管理)システム」から出力される分析資料
⑥ 調査対象法人の「ホームページ」、法人や代表者の「SNS」「ブログ」
⑦ (申告している場合)代表者と代表者の親族の申告書
⑧ (必要に応じて)取引先の申告内容、ホームページ など

③の「税歴」とは、過去の調査履歴、代表者の性向など調査に関する情報が詰まったファイルのことです。
過去の調査での不正行為や問題点があった事項については、税務調査で改善されているか必ず確認します。
タレコミ情報などもここで管理されることが多いです(特に文書)。

④の「資料せん」とは、適正・公平な課税の実現のための情報収集として、税務署からの依頼により納税者が提出するものと、国税組織が独自に収集した資料のことです。
納税者が提出する資料は1億枚、国税組織が収集した資料は14億枚あるというデータがあります。
不正につながる重要な資料(別管理)を除いて、③の税歴に挟んで管理していることが多いです。
また、風俗店・飲食店などの業種の場合、必要に応じて、調査対象の立地や店舗の決済状況などの情報収集のために「外観調査」や「内観調査」を行っており、有用な情報があった際には資料化されています。

⑤の「KSK(国税総合管理)システム」とは、全国の国税局・税務署をネットワークで結び、申告・納税の事績や各種の情報を一元的に管理するシステムのことです。
税務調査関連では、決算書のデータから、どの科目を優先して調査すべきか示した資料の出力ができます(レーダーチャートで☆評価)。
KSKシステムについては、次のブログで詳しく紹介しています。

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準備調査で行う作業

密かに進める準備調査の作業を解説します。

準備調査では多くの場合、直近5期分の決算書(損益計算書)を所定のExcelに入力し、変動が大きい科目や貸倒損失などの臨時的な科目の抽出を行います。

勘定科目内訳明細書の売掛金・買掛金・未払金など、直近5期分の推移をExcelに入力し、取引内容の変化などを分析・検討することもあります。

その他、前述した書類や情報を網羅的に確認し、申告内容に矛盾がないか、売上除外や架空経費など不正の可能性などを分析・検討します。

準備調査にかける時間

準備調査にかける時間は、税務署の法人課税部門で最も多く行われる税務調査の場合、半日程度で行うことが多いです。

法人の規模・業種・前回調査での不正の有無、前回調査からの経過年数などによって準備調査にかける時間はケースバイケースです。

比較的短い時間で前述した準備調査を行います。

準備調査の実情

ここからは税務署の内情になりますが、徹底的に調べ上げる準備調査もあれば、形式的な準備調査もあります。

税務署の法人課税部門で最も多く行われる税務調査は一人あたり年間約30件あり、調査で不正を把握するなど問題点を見つければ見つけるほど時間に追われます。
複数の調査事案を抱えるため、調査のスケジュールによっては、時間をかけたくてもかけられないこともあります。
このあたりは調査官個人の能力も影響します。

また、税務署内にもいろいろな部署があり、海外取引・IT・現金商売専門などの部署があります。
これらの専門部署が行う準備調査は徹底的に調べ上げるものです。

専門部署だけあって、1件あたりにかける時間が多く、また、特有の資料や情報を持っています。
「外観調査」や「内観調査」を行うことも多いです。
そのため、税務調査での不正の把握割合も高いですし、追徴税額も高額になります。

部署によって準備調査のほか、実地の税務調査の内容・調査結果が大きく左右されるのが実情です。

ちなみに、準備調査の際、上司である統括官からの指示があれば、税務調査で必ず確認しないといけません。
確認していないと、調査の報告(復命)時に詰められます。

私が調査官1年目のとき、指示内容を忘れてしまい、詰められた経験があります。
このブログを書いていて思い出しました。

職場で叱られる経験は自身の成長に必要ですので、今では貴重な経験と言えます。

まとめ

税務調査の前に行う「準備調査」の解説いかがでしたか?

準備調査の内容が税務調査に大きな影響を与えることが理解できたと思います。
国税組織には多くの情報やデータがあり、準備調査でそれらを組み合わせて分析・検討することにより、税務調査の結果につなげています。

今回のブログは税務調査をしていた人でしかわからない情報が多いです。
税務調査や調査官のことを知っていると知らないとで税務調査の不安度合が変わります。
このブログを読んで、税務調査や調査官のことを知り、税務調査の不安が軽減されたという方がいれば嬉しいです。


今後も税務調査に関するブログを書いていきますので、定期的にブログをチェックしてもらえると嬉しいです。

ではまた!

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この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。
業界の手本と言える高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、出身地である八尾市にて独立開業。
現在、法人の税務顧問に特化した税理士事務所と、酒類販売業免許専門の行政書士事務所を経営するとともに、令和7年度 大阪市産創館の経営サポーターとしても活動。

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