上の画像のとおり、お酒の表示にはかなり細かくルールが定められています。
税務署の酒類指導官部門が、お酒の表示内容が正しいか確認する「表示事項確認調査」を行っています。
酒類製造免許を取得すると、この調査の対象となり得ます。
今回のブログでは、消費者にとって関心の高い「表示事項確認調査」を詳しく解説します。
免許取得後に行われる調査一覧
免許取得後に行われる調査は、次の図表のとおりです。
調査の名称 | 調査の内容 | 調査対象(原則) |
---|---|---|
①酒類の販売管理調査 | 小売販売場へ臨場し、20歳未満の者の飲酒防止に関する表示の遵守状況等を確認する調査 | 酒類小売業免許業者 |
②酒類の取引状況等実態調査 | 酒類の公正な取引環境を整備するための調査。主に正当な理由なく「原価+経費≧売価」となっていないか調査 | 酒類小売業免許業者 酒類卸売業免許業者 酒類製造免許業者 |
③表示事項確認調査 | 酒類の容器・包装の表示が法令で定められている表示義務事項や表示基準に基づくか調査 | 酒類製造免許業者 |
④酒税調査 | 酒税を納める酒類の製造者等の申告内容が正しいか調査 | 酒類製造免許業者 |
関係する法律について、上記の①~③は「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(通称、酒類業組合法)」。
④が「酒税法」です。
酒類業組合法については、第1条で「酒税の確保及び酒類の取引の安定を図ることを目的とする。」と定められています。
その目的を達成するために上記①~③の調査が行われるわけです。
表示については、食品表示法などお酒以外の法律も関係します。
今回のブログは③表示事項確認調査を深堀り解説します。
お酒の表示事項の詳細は、こちらのブログで細かく解説しています。

表示事項確認調査について
調査のイメージ
酒類製造免許業者に対して、製造・販売する商品が法律や表示基準に基づいて表示されているか調査します。
ラベルに表示されている内容が合っているか、製造過程から追いかけていくものです。
国税庁のホームページに「酒類の表示方法チェックシート」があります。
表示事項確認調査のイメージとしては、このチェックシートのうち、製造過程を確認しないとわからないものを中心に確認・検討します。
参考に、日本酒(法律上は清酒)の表示方法チェックシートのURLを掲載します。
【国税庁ホームページ 酒類の表示方法チェックシート(清酒)】
https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/11/pdf/011.pdf
上記のチェックシートから、かなり細かく表示のルールが定められていることがわかると思います。
消費者に正しい表示内容の商品を届けるという観点で、表示事項確認調査は社会的意義の大きい調査と言えます。
調査ができるのは酒税法の記帳義務のおかげ
表示の調査が成り立つのは、酒税法第46条の記帳義務があるからと言えます。
記帳義務に関連する法令は次のとおりです。
酒税法第46条 記帳義務
酒類製造者、酒母若しくはもろみの製造者、酒類の販売業者又は特例申告者は、政令で定めるところにより、製造、貯蔵、販売(販売の代理又は媒介を含む。以下同じ。)又は保税地域からの引取りに関する事実を帳簿に記載しなければならない。
酒税法施行令第52条 記帳義務(一部抜粋)
法第四十六条の規定により、酒類製造者又は酒母若しくはもろみの製造者は、次に掲げる事項を帳簿に記載しなければならない。
一 受け入れた原料(次号に掲げる物品を除く。)の区分及び種別ごとに、その数量、価格、受入れの年月日並びに引渡人の住所及び氏名又は名称
二 受け入れた酒類、酒母又はもろみの区分及び種別(酒類については、税率の適用区分。以下この条において同じ。)ごとに、その数量、価格、受入れの年月日、引渡人の住所及び氏名又は名称並びに引渡先の所在地及び名称
三 使用した原料(次号に掲げる物品を除く。)の区分及び種別ごとに、その数量及び使用の年月日
四 使用した原料用の酒類、酒母又はもろみの区分及び種別ごとに、その数量及び使用の年月日
五 製造した酒類、酒母又はもろみの区分及び種別ごとに、その数量及び製造の年月日
六 移出をした酒類、酒母又はもろみの区分及び種別ごとに、その数量、価格、移出の年月日、受取人の住所及び氏名又は名称並びに移出先の所在地及び名称
七 前各号に掲げるものを除くほか、酒類、酒母又はもろみの製造、貯蔵又は販売に関し財務省令で定める事項
2 法第四十六条の規定により、酒類の販売業者は、次に掲げる事項を帳簿に記載しなければならない。
一 受け入れた酒類の区分及び種別ごとに、その数量、価格、受入れの年月日、引渡人の住所及び氏名又は名称並びに引渡先の所在地及び名称
二 払い出した酒類の区分及び種別ごとに、その数量、価格、払出しの年月日、受取人の住所及び氏名又は名称並びに受取先の所在地及び名称
三 酒類の販売の代理又は媒介をした者にあつては、当該代理又は媒介の別及び年月日並びに売買当事者の住所及び氏名又は名称並びに当該酒類の区分及び種別ごとに、その数量及び価格
四 前三号に掲げるものを除くほか、酒類の貯蔵又は販売に関し財務省令で定める事項
3 小売の場合においては、第一項第六号の受取人及び移出先又は前項第二号の受取人及び受取先に係る事項の記載を省略することができる。ただし、税務署長が取締り上特に必要があると認めてその記載を命じたときは、この限りでない。
酒類は液体のため、すべての過程で数量を記帳しないと検査取締ができません。
そのため、記帳事項に共通して「年月日」「数量」があります。
表示の調査では、記帳された帳簿書類(データ)を原料の仕入から容器に詰めるところまでを把握します。
検討用の表の様式を用いて、帳簿書類から転記するなどアナログな方法で調査します。
この積み重ねにより、表示事項である原料や製法などが正しいか確認できます。
酒税調査の観点で、移動で極端に量の変動があった場合、その理由を確認したりもします。
調査の頻度・調査官の人数
表示事項確認調査は、国税局や地域によって異なりますが、おおむね3~4年と高い頻度で行われます。
この調査は、酒類製造免許業者に対して酒税の申告内容が合っているか調査する「酒税調査」と同時に行われることがほとんどです。
この確認には時間がかかるため、税務署の酒類指導官部門の調査検査担当複数で調査することがほとんどです。
ちなみに、私が国税局の酒税調査の部署にいたときには、国税局が酒税調査、税務署が表示事項確認調査と役割を分担して調査を行うこともありました。
調査の結果・表示誤り時の対応
製造免許業者自身で、製造過程を追いかけて表示事項が正しいか確認をすることは現実的に難しいため、意図せずに表示が誤るケースがあります。
国税庁の資料から、表示事項確認調査の結果は次のとおりとなっています。

「酒類業組合法に基づき義務付けらた主な表示事項の表示がない」と対象があいまいであり、実際に表示誤りで指導している割合とはかなり異なっていると考えられます。
表示が正しくない場合、表示内容を改善するとともに、消費者へ表示誤りを伝え、商品の回収などを行うよう指導されます。
指導内容に従わない場合は、公表されるなど処分が重くなっていきます。
私の経験上、日本酒(清酒)の特定名称酒の表示については、誤りが比較的多いと言えます。
それだけ特定名称酒の表示のルールが厳格ということです。
全国市販酒類調査について
調査の概要
その他の表示に関する調査として「全国市販酒類調査」があります。
この調査は、酒税の適正かつ公平な課税の実現、酒類の品質と安全性の確保及び酒類業の健全な発達に資するために行われています。
調査対象酒類の選定は、各国税局管内の製造者全体の4分の1程度の製造者を選定し、これらの製造者が製造している商品を小売販売場から購入します。
4年でおおむね全ての製造者が製造する全ての品目の酒類が選定されるよう、計画的に選定されます。
その他各国税局が独自に必要と認めて買いあげたものも含まれます。
調査では品質や安全性を分析・確認します。
安全性については、例えば、放射性物質である放射性セシウム、毒性があるメチルアルコール、食品添加物である亜硫酸など、法律に基づく基準値を超えていないか確認します。
表示事項がラベル等に適切に表示されているかも確認しています。
前述した記帳義務から表示内容が正しいかというよりも、形式的に表示事項の確認をすることがメインです。
調査の実施は「鑑定官室」
「全国市販酒類調査」は各国税局の鑑定官室が実施します。
ここで「鑑定官室って何?」ってなると思います。
私も税務署でお酒の仕事をするまで知りませんでした。
国税庁のYouTube動画に、酒類指導官の仕事と併せて鑑定官の仕事の紹介があります。
12年前の動画と古いですが、興味があればご覧ください(約17分の動画)。
まとめ
私たち消費者にとって、お酒を含めた食品の表示は重要な情報です。
解説してきたように、お酒の表示事項については国税組織がしっかりと確認しています。
酒類の表示は消費者の利益のほか、酒税の検査取締の必要性からも厳しい表示のルールとなっているからです。
酒類の品質と安全性の確保などの理由から、国税庁・国税局にいる鑑定官という技術職のプロ集団もお酒の調査に携わっています。
風当たりの強い国税組織ですが、酒類行政や酒税を含めた幅広い仕事をしています。
財務省解体など悪い面だけでなく、行政としてすべきことをしていることを知ってもらえると個人的に嬉しいです。
最後に、いしい税理士・行政書士事務所では、元酒類指導官部門の免許担当の行政書士が免許申請を行っていますので、最短・確実な免許取得ができます。
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