【元国税調査官が解説】税務調査当日の流れ

税務調査は日程調整した上、実地で調査が行われます。

日程調整(事前通知)のポイントは過去のブログで解説しました。

今回のブログでは、実地で税務調査がどのような流れで行われるか解説します。
税務調査を受けたことがない方にとっては、税務調査のイメージができる内容となっています。

調査官側の視点や、私が法人の税務調査をしていたときの実体験も随所に書いています。
書籍やインターネットにない情報も多いですので、興味のある方は最後までお読みください!

目次

税務調査当日までに調査官が行うこと

税務調査当日までに調査官は「準備調査」を行います。
準備調査は税務調査の内容を左右する重要なものです。

詳しくはこちらのブログで解説しています。

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税務調査当日の流れ

中小企業を前提とします。
税務調査は連続した2日間で行われることが多いです。

調査初日

10時ごろに調査が開始されます。

あいさつ・雑談

最初のあいさつで、調査官は名刺を渡すと同時に「身分証明書」と「質問検査章」を提示します。
身分証明書などの提示が必要な旨が「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」に記載されています。

名刺交換後は雑談をします。
調査官としては、相手方の緊張をほぐし、この後の調査を円滑に進めるために雑談を行います。

私が調査をしていたときは、地域に関する情報・時事ネタ・会社までの経路で見つけた施設やお店などの話をすることが多かったです。

雑談で調査官自身の出身地や趣味などの自己開示を行い、その流れで社長の趣味や交友関係などを質問します。
交際費にプライベートなものを計上していないか検討する際、社長の趣味や交友関係を把握しておくが重要だからです。

このように、雑談には調査に有効な情報を把握する目的もあります。
社長が余計なことを話したことがきっかけで、問題点の把握に至るということがよくあります。
税務調査の正しい対応としては「社長は聞かれたことだけに答える」が正解です。

ちなみに、調査官たちは提供されたお茶やコーヒーなどは飲みますが、国家公務員倫理規定により、接待・供応と認められるような高級な茶菓子は口にしません。
昼食の誘いも、ごちそうになると問題になるため断ります。

概況聴取

雑談の後に、会社の沿革や事業内容などを質問します。
国税組織では、この質問を「概況聴取」と言います。

概況聴取では次の事項を質問・確認します。

・会社の沿革や事業内容
・会社案内、組織図、配席図の有無(あればもらう)
・主要売上先、売上先の数、入金手段
・主要仕入先、仕入先の数、支払手段(外注費があれば同様の確認を行う)
・在庫管理の方法、実地棚卸の状況
・役員の人数、担当業務
・経理担当、経理業務の内容
・帳簿の種類、税理士が作成、確認している書類の内容
・従業員の人数、勤怠の管理方法 など

概況聴取は、会社の事業内容や取引内容のイメージをつかむとともに、調査で必要な情報を集めることが目的です。
上記は一例です。
調査対象の会社や調査官によって、聴取する内容は異なります。

概況聴取の時間は30分から1時間程度です。
会社の規模や事業内容によって時間が変わります。

また、社長や税理士とのコミュニケーションを重視する調査官や、帳簿書類からわからないところを端緒に問題を把握するタイプの調査官であれば、概況聴取の時間は長い傾向にあります。

帳簿書類の確認・検討

概況聴取の後、帳簿書類の確認を始めます。

「総勘定元帳」とその詳細である「補助元帳」をベースに、これらの帳簿の基となる請求書・納品書・領収証・契約書などを確認します。

「総勘定元帳」とは、すべての取引を勘定科目ごとに整理・分類して記録した帳簿のことです。
総勘定元帳の決算日の累計=決算書の数字です。

調査初日に、期末の売上・仕入・棚卸資産や翌期の売上・仕入から、期ズレがないか確認することが多いです。
その他、売上については根拠書類を遡って検討し、取引のスタートとなる受注に関する書類と整合性が合うか確認し、売上除外がないかなどを検討します。

調査官は税務調査の前に「準備調査」を行っており、あらかじめ重点的に検討・確認する項目を決めています。
初日にその項目(科目)を確認しますが、多くの場合、売上や売上原価(仕入や棚卸、外注費も含む)になるでしょう。

帳簿書類を検討した際、疑問があれば税理士・経理担当者・社長などに対し随時質問します。
社長は常に税務調査に対応する必要はありませんので、基本的には税理士が質問に対応します。
税理士が答えられない場合、経理担当者や社長に確認してから回答するか、経理担当者や社長から直接回答してもらいます。

なお、調査官の調査の仕方は調査官ごとに異なります。
調査官には自分の調査の仕方というものがあります。
今までの統括官や先輩調査官からの指導、自身で考えた調査手法の実践などを経て、自分流の調査が形成されます。

私が調査していたときは、すべての事案で不正行為がないか確認するため、税理士が確認していない書類を中心に検討・確認する手法でした。

宿題の依頼

16時ごろに調査が終わります。

その前に明日までの宿題として、税理士や社長に疑問点の解明や書類の準備などの依頼をすることが多いです。
調査官が把握した問題点に関する帳簿書類や持ち帰って検討したい書類があれば、書類のコピーの依頼があります。

調査官からコピー依頼があったとき、税理士の正しい対応方法としては、1部多めにコピーしておき、その内容を把握しておくことです。
コピー書類を持っておくことで、問題点があった場合のやり取りがスムーズになりますし、調査官がどのような項目に目を付けていているか予測できます。

調査官たちは税務署に戻った後、上司である統括官に復命(報告)します。
重点項目の調査状況などを報告し、2日目の調査の指示を受けます。

(必要に応じて)事務室内や在庫保管場所などの確認

必ず行うものではありませんが、事務室内や在庫保管場所など現場の確認を行うことがあります。
調査官としては初日に行いたいところですが、会社側の都合によっては調査2日目に行うこともあります。

私が税務調査をしていたときは、概況聴取の後に「会社のことを知りたい」と説明し、製造現場・在庫保管場所・事務所・社長のデスク・経理担当者のデスク・金庫の場所・帳簿書類の保管場所などを案内してもらうようにしていました。

不正を把握するためには、帳簿書類以外の情報が必要であり、現場の情報がきっかけで不正を把握することもよくあります。

特に、売上除外(脱税)の把握のために、社長個人の通帳・社長のデスク・金庫の中身などの確認が重要です。
社長個人の通帳や引き出しの中を見せてほしいとお願いをすると当然嫌がられます。

私が調査をしていたとき、図書館で交渉や営業の本を借りて勉強し、説得から納得に至るトークスクリプトを用意し、社長や税理士に見せてもらえるようお願いをしていました。
そのときの反応で、何か隠しているということがわかることもありますので、嫌がられてでもお願いすることが税務調査の仕事と考えています。

ちなみに、個人の通帳や引き出しの中身を見せる義務はありません。
今は税理士ですので、上記のようなお願いがあれば、原則として断ります。

ただし、個人通帳の提示を断ることで、税務調査が長引く可能性もあるため、場合によっては提示した方がいいこともあります。

国税組織には金融機関の預金状況などの調査が可能であり、個人の通帳を見せなくても、調査官たちが預金の動きなどを把握することが可能です。

上記は銀行調査と呼ばれるものであり、この調査が行われると調査終了がかなり先になってしまいます。

調査2日目

初日と同じく10時ごろに調査が開始されます。

あいさつ・雑談・宿題の確認

社長と税理士にあいさつし、必要に応じて雑談します。
社長に対して、前日の疑問点や確認したいことがあれば、このタイミングで質問することもあります。

前日に依頼した宿題の結果も確認します。

帳簿書類の確認・検討

引き続き帳簿書類の確認を行います。
15時半ごろまで行われます。

講評

15時半ごろから調査官からの「講評」があることが多いです。
全国の国税局・税務署で「講評」という名称で統一されているわけではありません。
調査終了の際の手続」にある、仮の調査結果の内容の説明というイメージです。

講評では次の説明がされます。

①税務調査協力の感謝
②2日間の調査での問題点
③引き続き検討する事項、宿題の依頼
④帳簿書類の保管や経理の状況

①「調査協力の感謝」については、調査官としてのマナーのようなものです。
税務調査は時間的拘束、精神的負担があることを調査官も理解しています。

②「2日間の調査での問題点」については、現時点での問題点(売上計上漏れなど)とその金額の説明があります。
ただし、法律に基づく税務調査の手続としての説明ではありませんので、現時点(仮の状態)での説明です。
その旨も調査官から説明されるはずです。

③「引き続き検討する事項、宿題の依頼」については、問題となる可能性がある事項、時間内に終わらず引き続き検討する事項があれば、その旨が説明されます。
調査官としては、実地で調査する2日間のうちに検討したい事項と、持ち帰って検討する事項を分けている場合が多いです。
そのため、調査官は2日間で調査は終わりでなく、持ち帰って検討する事項があることと、税務調査終了時には改めて「調査終了の際の手続(調査結果の内容の説明等)」があることの説明も行います。

④「経理状況、帳簿書類の保管状況」については、調査の問題点とは関係ありませんが、帳簿書類の保管状況の良い部分、悪い部分などの説明がされます。
また、会計や経理に詳しい調査官であれば、改善すべき点をアドバイスしてくれる場合があります。

上記の講評は私が所属していた関東信越国税局の場合であり、国税局や税務署のほか、調査官によっても内容が異なることが考えられます。

そもそも講評がない場合もあるでしょう。

コピー代の精算・帳簿書類などの片づけ

調査官からコピーの依頼があった場合は、このタイミングで1枚10円で精算することが多いです。
会社によっては、精算しなくてよいとなる場合があり、コピー枚数が少ない場合は精算なしの場合もあります。

税務調査で使用した帳簿書類や部屋などを元どおりにしてから調査官たちは帰ります。
帳簿書類に付せんをしたものについても、すべて外し元どおりにします。
会社や税理士によってはそのままでよいと言われることがありますが、できるだけ原状回復に努めます。

【参考】調査官の能力は千差万別

前述したとおり、調査官の能力は千差万別であり、優秀な調査官もいればポンコツの調査官もいます。
過去に税務調査を受けた経営者の方が、「税務調査はたいしたことない」と感じている場合は、ポンコツ調査官であった可能性が高いです。

優秀な調査官は質問力、記憶力、想像力、分析力、人間力などが優れています。

税理士として、税務調査対応をしていた際に、ベテラン調査官の調査手法のすごさや調査官の記憶力に驚くことがあります。

一方で、毅然としていない調査官の対応や調査官の不適切な発言など、見ていて恥ずかしいと思うようなことが何度かありました。

調査官の調査能力はセンスと努力もあり千差万別です。
前述したとおり、税務調査で不正を把握するために現場の情報(帳簿書類からわからない情報)が有効であり、現場の情報を積極的に得ようとする調査官は手ごわい傾向があります。

なお、税務署内の専門部署や国税局が行う税務調査(規模が大きい法人を対象)は、一定の能力がある調査官が集まり、1つの税務調査にかけられる時間もあるため、税務調査は厳しいものとなります。

これらの部署が行う税務調査で「税務調査はたいしたことない」と思うことはまずないでしょう。

私が税務調査をしていた20代の話になりますが、調査経験が浅く、調査対象法人の業種や事業内容をよくわかっていませんでした。

調査の前に勉強しますが、会社の事業内容や業界の慣習などを詳しく理解できることは容易ではありません。
初日の概況聴取で、業種のことや事業内容を社長から教えてもらい、その日の夜にその内容を自身で調べて勉強しました。
調査2日目に、初日に教わった内容を深堀りした質問をすると社長は良い反応をします。
勉強熱心な若いヤツを応援したいという社長は多く、むしろ喜んでくれたり、感心してくれることもあります。

調査を円滑に進め、交渉をまとめるためにも、社長や税理士に気に入ってもらい、関係性を作っておくことも1つの調査の仕方と言えます。

最後に

税務調査当日の流れを解説してきました。

最後まで読んでくださった方は、税務調査当日にどのようなことが行われるか理解でき、調査官側の事情などにも詳しくなったのではないでしょうか?

税務調査に詳しくなると、税務調査となった場合の不安が軽減されます。
税務調査には「正しい対応」があり、1つでも知っていると、税務調査のトラブルを回避できたり、余計な税金を払うことがなくなります。

定期的に「税務調査の正しい対応」のブログを書いていますので、随時ホームページをチェックしてもらえると嬉しいです。

ではまた!

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この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。
業界の手本と言える高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、出身地である八尾市にて独立開業。
現在、法人の税務顧問に特化した税理士事務所と、酒類販売業免許専門の行政書士事務所を経営するとともに、令和7年度 大阪市産創館の経営サポーターとしても活動。

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