大手通販業者だけがビールを売れる理由?お酒の「ゾンビ免許」の正体と3,000klの壁

ネット通販で「アサヒ スーパードライ」や「サントリー 角瓶」を買おうとしたとき、Amazonや一部の大手ネットスーパーでは当たり前に売られているのに、新規参入したおしゃれなクラフトビール店や個人のネットショップでは、こうした有名メーカーのお酒が一切売られていないことに気づいたことはありませんか?
「品揃えの問題?」いえ、違います。そこには法律による絶対的な壁が存在するのです。
今回は、通称「ゾンビ免許」について解説します。なぜ特定の巨大企業だけが市場で優位に立てるのか、その裏側にあるカラクリと、高額で取引される「免許」の正体に迫ります。
新規参入者を阻む「3,000kl制限」の壁
現在、新しくネットショップを始めようとして酒類販売の免許(通信販売酒類小売業免許)を取得しても、実はすべてのお酒を売れるわけではありません。
そこには「3,000kl(キロリットル)制限」という厳しいルールが存在します。
売っていいお酒: 年間の製造量が3,000kl未満のメーカーのお酒(地酒、クラフトビールなど)または輸入酒
売ってはいけないお酒: 年間の製造量が3,000kl以上の大手メーカーのお酒
※製造量について、法律上は課税移出数量であるが、ほぼ同義
アサヒ、キリン、サントリーといったナショナルブランドは、当然ながら製造量が桁違いに多いため、新規の免許では販売すること自体が法律で禁じられているのです。
これは本来、大手による市場独占を防ぎ、地域の小さな酒屋さんや中小メーカーを保護するために作られた「需要と供給のルール」でした。しかし、このルールには「抜け穴」が存在します。
平成元年生まれの「ゾンビ免許」とは?
なぜAmazonは大手メーカーのビールを全国に通販できるのでしょうか? その答えは、1989年(平成元年)6月以前の免許を持っているからです。
1989年の法改正で「通販免許」という区分ができる前は、免許さえあれば「店頭でも通販でも、どのお酒でも売り放題」でした。
新しい免許: 大手ビールは売れない
古い免許(ゾンビ免許): 大手ビールも無制限に売れる
この消滅することのない強力な免許=権利こそが、業界で密かに「ゾンビ免許」と呼ばれているものの正体です。
大手企業はどうやって「ゾンビ免許」を手に入れたのか?
現在、この「無制限の免許」を新しく申請して取得することは不可能です。では、後発のIT企業であるAmazonなどはどうやってこれを手に入れたのでしょうか?
答えはシンプル。「持っている会社ごと買い取った」のです。
ここで重要なのが、単に「事業譲渡(お店を買い取る)」ではダメだという点です。酒類免許は「人・場所」に紐付くため、事業だけ買い取っても免許は消滅し、新規で取り直し(=制限付き)になってしまいます。
そこで使われるのが、M&A(株式譲渡)や会社分割というスキームです。
M&A(株式譲渡)
免許を持っている法人の株を100%買い取る。法人格はそのままなので、免許の「特権」も維持される
会社分割
免許を持つ会社から「酒販事業」だけを切り出し、自社に吸収させる。法的な要件を満たせば、免許を「無傷」で引き継ぐことができる
Amazonをはじめとする巨大プラットフォーマーは、こうした高度な法的スキームを駆使して、廃業寸前の酒屋や法人から「ゾンビ免許」を吸い上げ、自社の巨大な物流網に組み込んでいるのです。
数千万円で取引される「プラチナチケット」
この「ゾンビ免許」は、EC事業に参入したい企業にとって喉から手が出るほど欲しい資産です。
酒類販売が2年以上ない場合、税務署は免許を取り消す手続きを免許業者に説明(案内)します。
免許業者から取消申請書の提出があれば免許取消がスムーズにできますが、そうでない場合は免許取消のハードルはかなり高いです(行政手続上の「不利益処分」)。
そういった背景もあり、M&A市場において、営業実態がほとんどない会社であっても、「平成元年以前の免許がある」というだけで数百万〜数千万円の価値がつくことがあります。
新規参入者: どんなに努力しても、人気のアサヒスーパードライを売ることはできない
「ゾンビ免許」購入者: お金で権利を買い、最初からフルスペックで商売ができる
本来「需要と供給のバランス」の規制が、皮肉にも「資本力のある大企業が権利を買い取り、無双する」ための武器になってしまっているのが現状です。
まとめ:公正な競争とは何か
「ゾンビ免許」の問題は、酒税法の趣旨・目的から外れた歪みと言わざるを得ません。昭和~平成の古い規制をベースにした「酒税法の限界」の一例です。
消費者の利便性を考えればAmazonのサービスは素晴らしいものですが、その裏で、法制度の壁に阻まれている新規参入者がいることも事実です。
インバウンド向けたEC市場が拡大している中で、この「買える権利」に対して規制が可能なのか、注視していきます。
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