税務調査など税務の現場で、調査官や税理士が「通達」という言葉を使います。
日頃、経営者の方は通達という言葉をほとんど見聞きしないはずです。
しかしながら、税務調査において、通達の意義と内容を理解することは経営者と顧問税理士にとって大変重要です。
特に通達の前文を知っているだけで、税務調査時に随所で正しい反論ができます。
正しい反論により、余計な税金を納める必要がなくなる場合も多々あります。
通達の前文は税務調査の武器と言っても過言ではありません。
今回はそんな通達を詳しく解説しますので、ぜひ勉強してください!
通達とは
国税組織で使われる通達はいくつかありますが、最も重要なものは「法令解釈通達(以下、通達)」です。
税法の条文だけでは、税法の解釈・適用が難しいため、通達を定めることで国税組織共通の法律の解釈ルールとしています。
つまり、通達は税務行政における課税庁の方針と納税者の意思決定の橋渡しとしての役割があると言えます。
税務調査の現場で、調査官が法人税法の通達や消費税法の通達を用いることとなります。
そして、国税組織に所属する調査官たちはこの通達に拘束されます。
なぜなら、通達は「上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するもの」とされているからです。
実際の通達の内容
実際の通達の内容を確認しましょう。
法人税法における重要な通達を紹介します。
第6節 貸倒損失
第1款 金銭債権の貸倒れ
(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)
9-6-1 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)(1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
(3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
(回収不能の金銭債権の貸倒れ)
9-6-2 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」により改正)(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。
(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)
9-6-3 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46年直審(法)20「6」、昭55年直法2-15「十五」により改正)(1) 債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
(2) 法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
(注) (1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。
税務調査では、貸倒損失の計上根拠として、上記の通達が争点になることが多いです。
納税者側は通達に拘束されるか?
納税者側は通達に拘束されるか?答えは拘束されません。
しかしながら、税務調査を受ける納税者側も間接的には通達に拘束されます。
理由は次のとおりです。
①税務調査を行う調査官たちが通達に従うから
②裁判所は基本的には通達を尊重するから
①については、調査官たちが通達に基づく課税処分を行うため、納税者側(経営者・税理士)は通達の内容を踏まえ、調査官の主張が正しいか判断する必要があるからです。
そもそも適用すべき通達が合っていない指摘があったり、通達以前に事実が不明確な状態での指摘もあるため、調査官の主張は本当に正しいかと考えるようにすべきです。
②については、裁判所はざっくり言うと、基本的には通達を尊重するスタンスだからです。
理由は、通達が合理的な内容で定められているためです。
詳しくは後述します。
以上から、納税者側も間接的に通達に拘束されると言えます。
したがって、通達は法律と同じぐらい重要です。
知っておくべき通達の「前文」
通達の「前文」に重要な内容が記載されています。
前文の存在を知っているだけで、余計な税金を納める必要がなくなることがあります。
それぐらい超重要です!
法人税法の通達が他の税法よりも細かく記載されていますので、法人税法の前文を解説します。
前文の内容は次のとおりです。
法人税基本通達の制定について
法人税基本通達を別冊のとおり定めるとともに、法人税に関する既往の取扱通達を別表のとおり改正又は廃止したから、これによられたい。
この法人税基本通達の制定に当たっては、従来の法人税に関する通達について全面的に検討を行ない、これを整備統合する一方、その内容面においては、通達の個々の規定が適正な企業会計慣行を尊重しつつ個別的事情に即した弾力的な課税処理を行なうための基準となるよう配意した。
すなわち、第一に、従来の法人税通達の規定のうち法令の解釈上必要性が少ないと認められる留意的規定を積極的に削除し、また、適正な企業会計慣行が成熟していると認められる事項については、企業経理にゆだねることとして規定化を差し控えることとした。
第二に、規定の内容についても、個々の事案に妥当する弾力的運用を期するため、一義的な規定の仕方ができないようなケースについては、「~のような」、「たとえば」等の表現によって具体的な事項や事例を例示するにとどめ、また、「相当部分」、「おおむね…%」等の表現を用い機械的平板的な処理にならないよう配意した。
したがって、この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。
「個々の事案に妥当する弾力的運用」、「法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意」など、形式ではなく実態で判断すべきということが書かれています。
この前提で通達が定められているため、前述したとおり、裁判所は基本的には通達を尊重するわけです。
とは言え、数は少ないものの、裁判所が通達による法令の解釈を否定し、通達に基づく課税処分を取り消す事例もあります。
目まぐるしい国際情勢や経済状況の変化もあり、通達の内容を杓子定規に解釈することなどがあれば、正しい課税処分とはなりません。
通達の前文を理解したところで、税務調査の正しい対応を解説します。
税務調査の正しい対応
税務調査において、調査官が「通達に書いてあるから」という理由で、問題だと指摘することがあります。
ここまで読んだ方は、それが間違いであることに気付くはずです。
通達を杓子定規に適用した否認指摘には、「形式ではなく実態に基づき判断するのが課税のルール」と説明するとともに、通達の前文の内容を見せて反論しましょう。
【国税ホームページ 法人税基本通達の制定について】
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/zenbun/01.htm
まとめ
通達の意義と内容、税務調査の正しい対応を解説しました。
特に通達の前文が重要であり、税務調査のときには通達の前文を印刷したものを持っておくべきです。
そうすることで、調査官の正しくない指摘があったときに即座に反論ができます。
意外かもしれませんが、通達の前文を知らない税理士がほとんどであり、調査官の一定数も前文の内容を知りません。
私も過去に税務調査をしていましたが、恥ずかしながら、税務大学校の研修を受けるまで、通達の前文を知らないまま調査をしていた時期があります。
みなさんは通達の勉強ができたため、税務調査のアドバンテージがある状態です。
今回の通達の前文を理解することなど、税務調査の正しい対応をいくつか知っているだけで、税務調査のトラブルを回避できたり、余計な税金を払うことがなくなります。
通達の前文はじめ、税務調査の正しい対応は大変重要ですので、読まれた方の参考になれば幸いです。
税務調査で「正しい対応」ができるようになりたい経営者・税理士の方は、今後も定期的にブログをチェックしてもらえると嬉しいです!
ではまた!