初めての賞与支給。「いつもの給与計算」と同じ感覚で処理してはいけない理由

「業績が良かったので、初めて賞与(ボーナス)を出したい」

そう決断された経営者の方、素晴らしい節目を迎えられたということですね!

しかし、実務を行う上で警告したいことがあります。

それは、「賞与計算を、毎月の給与計算の延長線上で考えてはいけない」ということです。

実は、賞与計算には「給与計算とは全く異なる独自のルール」が適用されます。ここを誤解すると、保険料の徴収ミスや、手取り額の間違い、さらには行政手続きの遅延によるトラブルを招くことになります。

今回は、初めての方が陥りやすい「給与計算との決定的な違い」と「実務上の落とし穴」を徹底解説します。

目次

最大の違いは「税金」と「保険料」の決め方にある

毎月の給与計算と賞与計算では、控除額を決めるための「基礎となる数字」が根本的に異なります。以下の比較表をご覧ください。

項目毎月の給与計算賞与計算(今回の注意点)
所得税「給与所得の源泉徴収税額表」
(その月の支給額と扶養人数で決まる)
「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」
前月の給与額と扶養人数で決まる)
社会保険料
(健康保険・厚生年金)
「標準報酬月額」
(4-6月の平均で決まった固定の等級を使う)
「標準賞与額」
(支給するたびに、その額面に基づいて計算する)

このように、使う「定規」が全く違うのです。

【所得税】なぜか「前月の給与」を見る不思議なルール

最も混乱を招くのが源泉所得税の計算です。

賞与の税率は、「賞与の金額」ではなく、「前月の給与額」によって決まります。詳しい計算は、国税庁の情報をご確認ください。

【参考】源泉所得税の計算方法
国税庁:タックスアンサー No.2523 賞与に対する源泉徴収

なぜ「前月の給与」を見るのか?

賞与という一時的な大金にそのまま税率をかけると、税金が高くなりすぎてしまいます。そこで、「普段の給与水準(前月の給与)」を基準にして税率(%)を決定し、それを賞与額に乗じる仕組みになっています。

【落とし穴】前月の給与がない場合は?

新入社員や中途入社、あるいは休職明けで「賞与支給月の前月に、給与の支払いがない(または極端に少ない)」従業員はいませんか?

この場合、通常の計算式は使えません。「賞与の額をみなし給与として月額換算する」という極めて特殊な手計算(例外処理)が必要になります。これを見落とすと、システムがエラーになるか、誤った税額で計算されてしまいます。

【社会保険】「1,000円未満切り捨て」と「上限」に注意

社会保険料(健康保険・厚生年金)の計算において、特に注意すべきは「端数処理」と「上限管理」です。

① 「標準賞与額」は1,000円未満切り捨て

毎月の給与から引く保険料は「等級」で決まっていますが、賞与は「支給額」そのものから計算します。ただし、1,000円未満の端数は切り捨てます。

支給額
500,999円 の場合

計算対象
500,000円(999円は切り捨てる)

ここを間違えると、徴収額がズレる可能性があります。
雇用保険料は切り捨てず、総支給額(500,999円)にかける点も混同しやすいポイントです。

② 「上限」の管理が必要

毎月の給与同様、賞与にも保険料がかからない「上限額」がありますが、そのルールが複雑です。

厚生年金】
1ヶ月あたり150万円まで

健康保険】
年度(4月~翌3月)の累計573万円まで

特に健康保険は「年間累計」です。夏と冬の合計額で管理する必要があるため、給与ソフトの設定が正しく行われているか(過去の支給額を参照できているか)の確認が必須です。

社会保険の手続期限は「5日以内」。圧倒的に短い!

計算が終わって振込をしても、まだ終わりではありません。年金事務所への届出(賞与支払届)が待っています。

毎月の給与に関する手続き(算定基礎届など)は比較的余裕がありますが、賞与支払届の提出期限は「支給日から5日以内」です。

特に初めて賞与を支給する会社は、「このルールを知らずに手続が漏れる」ということが起きやすいので要注意です!

「給与計算が終わって一息ついていたら期限切れ」とならないよう、支給日当日に提出する段取りを組んでおきましょう。

その他の注意点

令和8年からの変更点

令和8年分以後、給与や賞与に使用する源泉所得税の計算に使用する「算出率の表」や「月額表」が変更されます。

また、社会保険料や雇用保険料の率が4月から変更される場合がありますので、最新の情報に注意しましょう。

クラウド型の給与計算ソフトを使用している場合、急な改正でない限り自動的に変更が反映されますが、念のため改正内容が反映されているか確認することをおすすめします。

役員への賞与

役員賞与の事前確定届出給与として届け出た支給額と異なる場合、損金不算入(経費不可)となるため注意が必要です。

詳しくは下のブログで解説しています。

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まとめ:賞与計算は「別物」として準備しよう

初めての賞与支給を成功させるポイントは、「いつもの給与計算とは違う」と認識し、以下の3点を重点チェックすることです。

所得税   「前月の給与」に基づいて税率が決まることの理解(前月給与ゼロの人は要注意)
社会保険 1,000円未満の切り捨て処理と、上限枠の確認
手続   支給後5日以内のスピード届出

賞与は従業員のモチベーションを高める最高のイベントです。事務ミスで水を差さないよう、万全の準備で臨みたいですね。

当事務所は経営相談ができる税務顧問をしていますので、「どれくらい賞与を支給すべきか」「社員たちへの支給方法、説明の仕方」などの相談にも対応します。税務と経営の両方のサポートが必要な方は、お気軽にご連絡ください。

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この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で10年以上、法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。在籍中に中小企業診断士登録。その後、高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、より多くのお客様に向き合うため独立開業。
顧問先様の「税務調査ゼロ」を掲げ、年間30件以上の創業支援を手がけるとともに、酒類販売免許に強い行政書士として活動。令和7年度からは大阪産業創造館の「経営サポーター」として大阪の経営者を多角的に支えている。

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