【令和8年度税制改正】賃上げ促進税制は「中小企業中心」へ

令和8年度(2026年度)税制改正において、法人向け施策の中でも特に重要な転換点を迎えたのが「賃上げ促進税制」です。
今回の改正は一言でいえば、制度の軸足が中小企業へと明確に移行した点にあります。
本記事では、中小企業の経営者・実務担当者が押さえるべき変更点と、それを踏まえた「財務×人事戦略」を実務目線で解説します。
賃上げ促進税制の改正ポイント
大企業・中堅企業向けは縮小・廃止へ

今回の改正における最大の特徴は、企業規模によって制度の存廃がはっきりと分かれた点です。
| 対象企業 | 令和8年度改正の方向性 |
| 大企業向け | 廃止(令和8年3月末開始事業年度まで) |
| 中堅企業向け(常時雇用の従業員数2,000人以下) | 要件を4%以上の賃上げに厳格化(令和9年3月末開始事業年度まで)。その後廃止 |
| 中小企業向け | 一部要件を見直し。適用は令和9年3月末開始事業年度から |
記録的な利益を上げる大企業には「自力での賃上げ」を促す一方、価格転嫁に苦しむ中小企業には引き続き「税額控除」という強力なバックアップを残すという、政策の意図が読み取れます。
以下、中小企業向けを前提に解説します。
※資本金1億円以下でも大企業傘下にある「みなし大企業」は適用外となるため、事前の資本関係の確認は必須です
「教育訓練費」の上乗せが廃止

令和8年度以降の実務において最も大きな影響を与えるのが、「教育訓練費の増加による10%の上乗せ措置」の撤廃です。
従来は「2.5%賃上げ(30%) + 教育訓練費要件(10%) + 認定要件(5%) = 最大45%」という高い控除率が可能でした。しかし、制度の簡素化と「純粋な給与増」へ政策的リソースを集中させる目的から、この10%枠が消滅します。
外部研修などに予算を割いて控除を狙っていた企業も一定数ありましたが、今後は税制目的ではなく、研修本来の目的で予算や内容を検討する必要があります。
賃上げ促進税制の基本と戦略
改めて賃上げ促進税制の基本と戦略を解説します。
「税額控除」の基本ルール

中小企業が受けられる税額控除の割合は改正前後で変わりありません。役員やその親族を除く「従業員」に対する給与等の増加割合に応じて、以下の控除が受けられます。
- 前年度比 1.5%以上の賃上げ: 増加額の 15% を税額控除
- 前年度比 2.5%以上の賃上げ: 増加額の 30% を税額控除
- 控除上限:法人税額の20%
ベースアップ(基本給の引き上げ)だけでなく、賞与などの増額も対象となるため、固定費増加に慎重な企業でも引き続き柔軟な活用が可能です。
※賃上げの原資となる助成金等を受け取った場合は、助成金等の種類によっては控除対象から除外する必要がある点に注意してください
「くるみん・えるぼし」認定

引き続き「子育て・女性活躍支援(くるみん・えるぼし等の認定)」による5%の上乗せ措置があります。
つまり、令和8年度以降に最大控除率(35%)を達成するには、この認定取得が必須です。認定取得は一朝一夕にはできず、行動計画の策定や社内制度の整備など年単位の取り組みが必要です。
しかし、人手不足が深刻化する中、これらの認定マークは「働きやすいホワイト企業」としての公的な証明になります。認定を受け、対外的なアピールをすることにより、採用力の強化・離職率の低下・ブランディング向上につながるでしょう。
赤字企業の戦略

「うちは赤字だから税額控除なんて関係ない」「法人税額の20%上限に引っかかって、控除枠を使い切れない」そうお考えの経営者にぜひ知ってほしいのが、「繰越税額控除」の仕組みです。
賃上げを実施した年度に使い切れなかった(または赤字で使えなかった)税額控除の枠は、最長5年間にわたって繰り越すことが可能です。
業績が厳しい時こそ、人材流出を防ぐために防衛的な賃上げを行い、将来黒字化して法人税が発生したタイミングで控除枠をぶつけて資金流出を抑える。この最長5年のセーフティネットを活用した、中長期的な戦略を描くことが可能となっています。
まとめ
大企業向けの制度が縮小される一方で、中小企業向けの優遇措置も、将来にわたって続くとは限りません。だからこそ、制度が利用できる今のうちに、「優秀な人材の確保・定着」という経営戦略の一環として、賃上げ促進税制を積極的に活用することが重要です。
一方で、実務上の注意点として、税額控除の計算ミスが多い点が挙げられます。過去には計算誤りが相次いだため、国税庁が国税局や税務署に対し、納税者へ「簡易な接触」により、計算内容の見直しを促すよう指示したこともありました。
また、助成金の取扱いや繰越税額控除の計算も複雑になりがちです。賃上げ促進税制の適用にあたって不明点がある場合は、早めに税理士へ相談し、正確な処理を行うことをおすすめします。
免責事項
当ブログのコンテンツ・情報について、できる限り正確な情報を提供するように努めておりますが、正確性や安全性を保証するものではありません。掲載された内容によって生じた損害等の一切の責任を負いかねますのでご了承ください。










