基礎控除が変わるとどうなる? 令和8年提出「給与支払報告書」の実務影響を税理士が解説

毎年1月の恒例業務である「給与支払報告書」の作成・提出。年末調整の並行+延長の作業ですが、令和8年(2026年)1月の提出業務は、例年通りの「前年踏襲」では乗り切れない可能性があります。

令和7年分からの所得税制改革、特に「年収の壁」打破に向けた基礎控除の大幅増額や、新たな扶養控除の創設により、記載内容やシステム設定に大きな変動が起きています。

システムを使用している場合でも、度重なる税制改正のすべての事項に対応しているわけではありません。対応していない場合は特に注意が必要です。

このブログでは、税務・人事労務の担当者、中小企業の顧問税理士が押さえておくべき令和8年提出分の実務ポイントを、法制度の背景から具体的な記載要領まで網羅的に解説します。

目次

給与支払報告書とは? 基本構造と提出義務

まずは基本の再確認です。給与支払報告書は、地方税法第317条の6に基づく法定調書であり、従業員の翌年度(令和8年度)の住民税額を決定するための最重要書類です。

提出先と提出範囲の違い

よくある間違いが、税務署に提出する「源泉徴収票」と同じ基準で考えてしまうことです。両者は似て非なるものです。

項目源泉徴収票(国税)給与支払報告書(地方税)
提出先所轄の税務署長1月1日時点の住所地の市区町村長
目的所得税の精算確認住民税の課税決定
提出範囲一定要件(年収500万円超など)あり原則、全員分(退職者含む)
マイナンバー記載必須(本人交付用は不可)記載必須

⚠ 実務上の注意

税務署への提出が不要な「年収500万円以下の従業員」であっても、市区町村への給与支払報告書は提出義務があります。ここを漏らすと、従業員の住民税が正しく計算されず、非課税証明書が発行できない等の不利益を与えることになります。

令和7年度税制改正による「記載内容」の変化

令和8年1月に提出する報告書には、令和7年(2025年)1月〜12月の所得情報が記載されます。ここは「年収の壁」対策により、数字のロジックが大きく変わっています。

基礎控除額の変動(48万円→最大95万円へ)

これまでの「基礎控除=一律48万円」という常識は通用しません。合計所得金額に応じた控除額により複雑化しています。

  • 合計所得132万円以下: 基礎控除 95万円
  • 合計所得132万円超〜: 所得増に伴い、88万・68万・63万・58万円と段階的に減少
  • 合計所得2,350万円超: 従来通り48万円〜(2,500万円超で消滅)

給与計算システムなどが、この新しい「変動する基礎控除額」を正しく判定し、報告書の所定欄に出力できているか確認する必要があります。

給与所得控除の増額と「新・非課税ライン」

基礎控除の増額とセットで、給与所得控除(最低保障額)も55万円から65万円へ引き上げられました。これにより、所得税の発生ライン(非課税ライン)は160万円以下に変わります。

しかし、所得税が0円でも給与支払報告書の提出は必須です。「所得税が出ないから提出しなくていい」という判断ミスが現場で起きないよう注意が必要です。

新設「特定親族特別控除」への対応

19歳〜22歳(特定扶養親族)の子を持つ親の「手取り減」を防ぐため、新たな控除が創設されました。

従来の扶養範囲を超えて稼ぐ学生アルバイトの子がいる場合、一定額まで親の所得から控除できる制度です。所得税だけでなく住民税にもこの控除が適用されます。

【実務のポイント】

  • 年末調整の申告書(基・配・特・所申告書)から、該当する特定親族の「所得見積額」を正確に把握する
  • 報告書の摘要欄または新設欄に、適用を受ける旨と控除額を正確に記載する

重要ポイント:「摘要欄」の書き方と「普通徴収」

給与支払報告書の「摘要欄」は、単なるメモ欄ではありません。自治体への重要なメッセージ伝達手段です。特に特別徴収(給与天引き)から普通徴収(個人納付)へ切り替える場合は重要なポイントです。

普通徴収切替理由(略号:a~d)の記載

原則として全従業員が「特別徴収」ですが、正当な理由がある場合は「普通徴収」が認められます。大阪府内の市町村の場合は、以下の略号の記載を求めています(都道府県により略号は大きく異なります)。

略号理由
前年中の退職者または給与支払報告書を提出した年の5月31日までの退職予定者
給与が少なく、市民税・府民税・森林環境税を特別徴収しきれない者
給与の支払期間が不定期の者(例:給与の支払が毎月ではない)
他から支給される給与から市民税・府民税・森林環境税が特別徴収されている者(乙欄適用者)

提出期限とスケジュール

法定提出期限:令和8年2月2日(月)

※本来は1月31日ですが、土曜日のため翌月曜日となります

遅延は「手取り計算」を狂わせる

「期限が過ぎても大丈夫だろう」は危険です。自治体は2月〜5月の短期間で膨大な計算を行います。提出が遅れると、5月の税額通知に間に合わず、6月・7月のみ普通徴収、または後からまとめて特別徴収となり、従業員に多大な手間と不信感を与える結果になります。

可能な限り、1月20日頃までの早期提出を目指しましょう。

まとめ:今のうちに準備すべきこと

令和8年の給与支払報告書業務は、単なる事務作業ではなく、税制改正への対応力も試されます。

システム確認: 「基礎控除95万円」「給与所得控除65万円」等の改正に対応しているか
情報収集: 従業員から回収する扶養控除等申告書で、「特定親族」の情報が正しく記載されているか
周知徹底: 「所得税0円でも住民税はかかる場合がある」「原則は給与天引きである」ことの従業員への説明

この過渡期を無事に乗り切るため、早めの着手と精度の高いデータ作成を心がけましょう。

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この記事を書いた人

関東の国税局・税務署で10年以上、法人の税務調査や酒類業免許審査担当などに従事。在籍中に中小企業診断士登録。その後、高付加価値サービスを提供する税理士法人で実務経験を積み、より多くのお客様に向き合うため独立開業。
顧問先様の「税務調査ゼロ」を掲げ、年間30件以上の創業支援を手がける。酒類販売免許に強い行政書士としても活動し、令和7年度からは大阪産業創造館の「経営サポーター」として大阪の経営者を多角的に支えている。

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